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菊池研究員レポート③(ペルー)

更新日:2018年7月7日

2017年11月 アマゾンマナティーの調査報告(こぼれ話)


報告者:マナティー研究所/京都大学 野生動物研究センター 菊池夢美


 さて,無事に #イキトス#アマゾン川 での #マナティー 調査を終了しましたが,最後の難関が待ち受けていました.荷物を抱えて,#アマゾンの熱帯雨林 の道なき道を2時間(と聞いていましたが,実際は3時間以上)歩かなければならないのです.

 写真に写っている右側の男性(CREAのメンバー)と私の2名でイキトスへと戻ります.


 調査を行なった11月は,アマゾン地域の乾期でした.乾期と雨期があるのは,アマゾン地域の大きな特徴です.雨期には雨が多く降って川の水位が上昇するため,陸地だったところが水没します.そこをボートで移動できるようになります.

 一方で,乾期には雨が降らないため,川の水位が下がって再び陸地に戻ります.場所によっては,川の水位が10メートル以上も変化するところがあります.


 調査時期は乾期だったので,川の水位が下がって陸地が広がっていました.イキトスへ戻るためには,森の中を歩いて,大型船の船着場まで移動しなくてはいけません.


「何時間くらいかかるの?」と聞くと,「2時間くらいだよ」と答えが返って来ました.私はブラジルで10年,調査をやっています.彼らの言う2時間が,決して2時間ではないことをすぐ理解しました.覚悟を決めて,森を歩く決意をします.

 私は,大きな荷物を1個とリュックサックを1個,カバンに入りきらない調査用のアンテナ1本を持っていました.さすがに大きな荷物を抱えて森を歩くのは無理なので,近くの村の男性に頼んで,道案内をしてもらいつつ,この荷物を1個持ってもらいました.

 彼は荷物を頭の上にひょいっと乗せて,すたたたーっと凄まじい速さで歩き出しました.かなり早歩きをしないと追いつけないスピードです.


 歩き始めは元気があったので,カメラを片手に撮影しながら,アマゾンの森を楽しく早歩きしていました.「普段からランニングして,鍛えておいてよかったなぁ」と余裕です.

 しかし,1時間半経った頃,ひどく喉が乾いてきました.一回も歩みを緩めることなく,早歩きが続いています.とても蒸し暑くて汗だくです.

 さらに,昨日の雨で森の道は泥々にぬかるんでいて,そこを長靴を履いて歩き続けていたため,足がとても疲れました.3名で森の中を歩いていたのですが,私は他の2名からだいぶ遅れてしまっています.


 2時間経ち,喉の渇きに我慢できなくなったので,私は少し立ち止まって水のボトルを取り出しました.その途端,凄まじい量の蚊が襲ってきました.

 目や鼻の穴,耳の中にまで蚊がプンプン飛び込んできます.虫除けスプレーしたはず,なんて,そんなことがここで通用するわけありません.


 ここはアマゾンの森の中.少しでも動きを止めれば,蚊の餌食になってしまうようです.私は心の中で悲鳴をあげながら,早歩きを開始しました.

 ボトルの水を飲みながら(こぼしながら),前を歩く2名になんとか追いつきます.一体,あと何時間歩かないといけないのでしょう.2時間と聞いていたけれど,予想通り2時間は過ぎています.


 その後,雲行きが怪しくなり,強い雨が降りました.ようやく前の2名が立ち止まり,水をぐいっと飲みだしたので,私はレインコートを取り出しました.が,それを着る間も無く「急ごう!」と言って2名は歩き出しました.みんな必死で,雨が強くなる前に森を抜けようとしています.

 雨と同時に湿度が上がり,風が強く吹き,暑いんだか寒いんだかわからない状態です.とにかく全てがベタベタドロドロで渇いている部分はありません.レインコートなんて無意味に感じました.これを着るための労力さえ,温存しておけばよかった,と思うほど疲れました.


 しばらくすると,森を流れる小川にぶつかりました.雨で流れが強くなっています.ちょうどいい具合に,大きな木の根が橋のように小川を渡っていたので,この上を渡ります.

 しかし,疲れていたためバランスがとれず,右足が滑って川の中に落ちてしまい,泥にはまって抜けなくなりました.

 どんなに力を入れて引っ張っても抜けません.動きを止めた私に蚊が容赦なくふりかかります.前の2名は気づかずに歩いて行ってしまう..のはまずいので,大声で叫んで彼らを呼び戻し,手を借りて引っ張り上げてもらい,なんとか足を引き抜きました.


 さて,3時間が経ちそうです.もう時計を見る元気もありません.いつかは終わるのだ,と頭の中で唱えながら,ひたすら前の2名を追いかけます.

 ボトルの水は空っぽになりました.雨とぬかるみで全身くまなく濡れていて,体温が奪われて寒いです.すると,ようやく前の2名がこちらを笑顔で振り返りました.

「着いたよ!」


 森を抜けると,そこには大きな村がありました.人家の立ち並ぶ様子を見て,「ああ終わった!」と心からほっとしました.

 私たちは村長さんの家に行き,調査の報告をしながら少し休ませてもらいました.改めて自分の姿を見ると,ズボンは赤土の泥まみれで変色していて,上半身も雨と汗でびしょぬれで,汚らしい格好でした.

 疲れ切って会話に参加することもできない私に,村長さんは暖かく「おつかれさま」と声をかけてくださって,とても親切でした.この後は,村の船着場からイキトス近くの街まで,大型船で3時間の移動です.(と聞いていたけど,やはり5時間近くかかりました.)

村にある大型船の乗り場

 荷物持ち兼ガイドとしてお世話になった村の男性にお礼を言い,お別れです.CREAのメンバー1名と私は船着場へ行き,大型船に乗り込んで,洋服を着替えてさっぱり!で,気づいたのは「まずい!持ってたアンテナを村長さんの家に忘れて来た!」


 私は,調査用のアンテナを抱えて森の中を歩いていたのですが,それを村長さんの家に置きっ放しにしてしまいました.疲れていたから,ぼーっとしてしまったんです.

 その後,CREAのメンバーが村長さんに問い合わせてくれたおかげで,アンテナを船に積んでイキトスまで輸送してもらえました.

アマゾン川の夕暮れ

 大型船の中は,ハンモックを吊るして休んでいる人がたくさんいます.私たちがハンモックを吊るすスペースが空いてなかったので,私はベンチに横になっていました.太陽が沈むと,気温は下がり,壁のない船の二階部分は風が強く吹いていました.


 私は風除けに,とレインウェアを上下着ていましたが,すごく寒い..修行のような心持ちで,しずかに時が経つのを待ち,寝転がっていました.

 こうして,なんとか街までたどり着いて,晩御飯に食べたのはチキン・ワンタンスープです.イキトスは中国からの移民が多く,街でも中華料理が食べられるんです.本当に美味しい.染み渡ります.ワンタンスープに癒された夜でした.


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