沖縄で学ぶ、ジュゴンとマナティーの最新情報
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海牛シンポジウム(第8回 海牛祭り)を開催しました!
2026年2月8日、沖縄美ら海水族館にて、「海牛シンポジウム(第8回 海牛祭り)」を開催しました。
当日は、マナティー観察会に加えて、国内外で海牛類を研究する研究者や、水族館で飼育に携わる専門家によるシンポジウムを実施しました。
マナティーやジュゴンについて、研究者や飼育員の方から直接話を聞ける機会は、実はそう多くありません。
今回は、海牛類の体のつくりや健康、海草藻場の危機、そして人との関わりまで、さまざまな角度から最新の研究や現場の話を学ぶ、とても貴重な一日となりました。

まずは、マナティーをじっくり観察
イベントのはじまりは、沖縄美ら海水族館のマナティー館での観察会でした。
ふだん何気なく見てしまいがちなマナティーの動きも、専門家といっしょに見ると、見え方が変わってきます。
どんなふうに泳いでいるのか。
何を食べているのか。
どんな体のつくりをしているのか。
水族館で飼育されている個体をよく観察することは、海牛類の体の特徴や行動を知るうえで、とても大切です。
飼育の現場で積み重ねられてきた知見は、研究や保全にもつながっていきます。
シンポジウムでは、世界の研究と現場を学びました
観察会のあとは、シンポジウムへ。
会場とオンラインをつなぎながら、世界各地で海牛類を研究する研究者のみなさんのお話を聞きました。
発表内容を少しご紹介します
マナティーの歯は、草を噛むのに特化している
アンドリュース大学のDaniel Gonzalez-Socoloske博士は、マナティーの歯の大きさや摩耗の違いについて紹介しました。
マナティーは、私たちのように一度生えそろった歯を使い続けるのではなく、奥から新しい臼歯が生えてきて、前に移動し、古い歯が抜け落ちていくという、とてもユニークな仕組みをもっています。
さらに、種によって歯の大きさや摩耗のしかたに違いがあり、とくにフロリダマナティーでは歯の摩耗が大きいことが示されました。
こうした違いは、食べものや暮らす環境の違いとも関係しているのかもしれません。
ふだん見えない「歯」からも、海牛類のくらしが見えてくるのだと感じる発表でした。
そして、マナティーの歯についての研究が少なく、基本的なこともわかっていないのだな、と驚きました。

人とマナティーの関係は、守ればそれで終わりではない
菊池夢美・Aristide T. Kamura博士の発表では、カメルーン・オッサ湖で起きているアフリカマナティーと人との関係の変化を紹介しました。
これまで、混獲を減らす取り組みや認知の向上によって、密漁や網への絡まりは減ってきました。
しかしその後、外来種の浮き草が増え、マナティーのえさとなる水草が減少し、湖の環境が悪化。
さらに、浮き草の駆除が進んで環境が回復すると、今度はマナティーが戻ってきたことで、漁業の再開と重なり、再び網の破損や混獲が起きるようになっています。
自然が回復すればそれですべて解決、というほど単純ではありません。
生きものを守ることと、人の暮らしを守ること。
その両方をどう成り立たせていくかをみんなで考えてみたいと思いました。

ジュゴンの健康状態はどうやって調べるの?
オーストラリアに留学中の倭千晶氏の発表「ジュゴンの健康診断 in オーストラリア」では、野生のジュゴンの健康状態をどうやって調べるのかが紹介されました。
これまでは、ジュゴンを一時的に捕獲し、体の大きさを測ったり、皮膚や血液を採取したりして健康状態を調べてきました。
しかし、この方法には多くの技術者や長年のノウハウが必要です。
そこで現在は、もっと多くの地域で応用できる方法として、ドローン画像からジュゴンの健康状態を評価する手法の開発が進められています。
野生動物を守るためには、数が大きく減ってからではなく、早い段階で異変に気づくことが大切です。
倭さんの研究紹介では、膨大なデータを収集し、非常に細かい解析を行なっていることがわかりました。圧巻の研究発表です。
そして、最後に表示されたあのジュゴンの写真!
まさかの立ち泳ぎ、びっくりしましたね。

ジュゴンは、いつ海草を食べに来るのだろう?
市川光太郎博士は、「ジュゴン音響調査 古宇利島とタイ」と題して、沖縄とタイで進めている音響調査について紹介しました。
沖縄では、宮古島市伊良部島に設置した音響装置によって、ジュゴンが海草を食べる音が記録されています。こうした記録を調べていくと、干潮時に摂餌音が記録される傾向が見えてきたそうです。
これは、ジュゴンが朝の干潮時など、できるだけ深く潜らなくてもよいタイミングを選んで海草藻場にやって来て、効率よく食べている可能性を示しています。
ジュゴンはどこにいるのか、だけでなく、「いつ、どんな条件で食べに来るのか」という新しい視点が見えてくる、とても興味深い発表でした。
また、市川博士は、生きものの鳴き声の機能を調べる研究が専門です。
最近ではタイで、野生のジュゴンに対して音を聞かせる音響再生実験(プレイバック実験)を実施し、ジュゴンが音に対してかなり正確に音源定位、つまり「どこから音が聞こえてきたか」を推測する能力を持っている可能性がわかってきたそうです。
現在、沖縄ではジュゴンを見かけることが難しく、現在は少なくとも2頭は生息している、という情報にとどまっています。
そのため、日本でのジュゴンの研究はなかなか実施しづらい状態で、その生態も謎に包まれています。
今回、世界トップクラスのジュゴン研究を実施しているタイから、ジュゴンの現状についての紹介をしていただくことができました。
海草藻場の危機は、ジュゴンの危機でもある
プーケット海洋生物学センターのKongkiat Kittiwatanawong博士は、タイで進行しているジュゴンと海草藻場の危機について発表しました。
過去2年間、タイでは海面の変化や海水温の上昇、堆積物の増加などが重なり、海草藻場が広い範囲で減少していること。そして、その結果として、ジュゴンの個体数が大きく減少していることが報告されました。
飢餓や病気、漁具への絡まり、船との衝突といった問題も深刻になっています。
タイでは、ドローンによるモニタリング、聞き取り調査、市民科学、AIを活用した受動音響モニタリングなど、新しい技術を使った保全の取り組みも進められています。
特に、ドローンによるモニタリングは自動化されていて、タイの技術力の高さはすごいですね。
ジュゴンを守るためには、ジュゴンそのものだけでなく、海草藻場という「くらしの場」を守ることが欠かせません。
そしてそれは、タイだけの話ではありません。日本でも同じように海草藻場の減少がみられています。
日本では、すでにジュゴンの生息数が大きく減ってしまっています。
そんな今、海草藻場を失うことは、ジュゴンにとって致命的です。
タイの現状を知ることで、日本のジュゴンを守るために何が必要なのかを、あらためて考えさせられました。

参加者のみなさまの声
イベント後のアンケートでは、うれしい感想がたくさん寄せられました。
「知らなかったことを知る楽しさ」や、「研究を通して海の見え方が変わったこと」が伝わってくる声が多く、メンバー一同、とても励まされました。
マナティーが人参やカボチャの色が好きなところが印象に残りました。マナティーが色がわかるなら、魚を採る網を緑と反対の赤色にしたら、ひっかからないのでは、と思いました。
オッサ湖の浮き草の件が解決してマナティーが増えたのに、新しい問題が生まれているところが印象に残りました。マナティーが心配です。ジュゴンも痩せているとのことで、ごはんをたくさん植えたい気持ちになりました。
海外で行われている研究発表をリアルタイムで聞けたことがとてもよかったです。日本ではまだ海牛類の存在がマイナーなので、もっといろんな人に魅力を知ってもらいたいと思いました。
生体の観察にドローンを使うことで、たくさんの情報が集められていたことに驚きました。水族館以外の野生のマナティーやジュゴンの映像や画像が見られて楽しかったです。
ジュゴンとの違いや歯のこと、タイでの保護のあり方など、とても勉強になりました。鳴き声も初めて聞き、面白かったです。
参加者のみなさまからの質問をご紹介します
今回のイベントでは、参加者のみなさまから、たくさんの質問をいただきました。
鋭い質問や、研究のこれからにつながるような視点も多く、講師一同とてもうれしく拝見しました。
ここでは、回答しきれなかった質問の一部をご紹介します。
Q1. マナティーと人との対立
マナティーが寝ている間に漁をするとか、マナティーは逃げられて魚だけ捕まえられる網はないですか?
A.
アフリカマナティーについては、まだわかっていないことも多いのですが、基本的にマナティーは昼だけ、夜だけに活動する動物ではなく、人の活動を避けながら行動していると言われています。そのため、「眠っている間に漁をする」という方法は、あまり現実的ではないかもしれません。
一方で、「魚だけ捕まえられる網」があればいいのに、と思いますよね。
海の生きものの多くは、魚網への混獲が、生息数を減らす大きな原因になっています。これはマナティーだけでなく、ウミガメ、クジラの仲間、アザラシ、海鳥などでも問題になっています。
もちろん、まず大切なのは、私たち人間が生きものへの配慮をすることです。
けれど、それだけでは避けきれない問題を減らすために、「魚だけがかかり、ほかの生きものは逃れられる網」が開発されれば、たくさんの生きものを守ることにつながるかもしれません。
Q2. 沖縄でも野生のジュゴンはなかなか見られないと思うのですが、どうやって録音機を装着したのかな?
市川博士の発表によれば、沖縄では、海底に録音装置を設置して、その周辺の音を記録する方法で研究を進めているとのことでした。
なお、ジュゴンを捕獲して録音機を装着する研究は、過去にスーダンで行われていたようです。このときは、ジュゴンの尾びれのつけ根にベルトを巻き、そこに録音機を取り付けていたとのことでした。
Q3. 温暖化の影響で和歌山県でも沖縄の魚などが見られることがありますが、将来的にジュゴンも来ることはあるのかな?
海水温の上昇は、大きな問題になっていますよね。
もともとそこにいた生きものたちの暮らしが失われてきていることを思うと、不安になります。
ジュゴンは、それほど長い距離を泳ぐ能力が高い動物ではなく、自力で大きく回遊するのは難しいと言われています。
ただし、本来の生息域や移動ルートから大きく外れた場所に現れることもあります。こうした海の生きものは、「迷い個体」 と呼ばれます。
ジュゴンについては、2002年に熊本県で迷い個体が混獲された記録があります。このときも、温暖化の影響が懸念されていました。
おわりに
今回の海牛シンポジウムは、海牛類の魅力を知るだけでなく、研究の面白さや、保全について考えるきっかけを皆様にお届けできたでしょうか。
ご参加くださったみなさま、登壇者のみなさま、そしてご協力くださったみなさまに、心より感謝申し上げます。
これからもマナティー研究所では、海牛類の魅力や、海の環境について学べる機会をつくっていきます。
今後の活動も、ぜひ見守っていただけたらうれしいです。



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