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菊池博士からの手紙

更新日:2019年4月18日


報告者:冨田明広


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日本に帰国してからが、教師の腕の見せ所です。


ブラジルの熱帯雨林の減少というテーマに、どのようにしたら子どもたちを魅力的に誘うことができるのか?


そして、どのような学習のデザインをすれば、子どもたちは視聴者ではなく、自分のこととして学習をすすめることができるのか?


私たち教師は、子どもたちがテレビを見るかのようにコンテンツを消費するのではなく、自分の学習に主導権をもち、子どもたち自身がコンテンツを作り上げられるようなクリエイティブな学習ができるように、学習の構造をデザインしていきます。


その教師がデザインした学習の構造で、子どもたちはのびのびと遊ぶように学び、生涯役に立つ探究する力を体得していきます。

その入口としてふさわしいのは、美しいアマゾン川の風景や不思議な生き物たちでしょう。


・ふわふわした体で手の上を歩く大クモ


・すごい力で締め付ける大蛇


・水面をジャンプするピンクイルカ


・牙が鋭いピラニア


・顔を見るころにはしっぽを忘れているほど長いピラルク



教室のテレビに映し出される珍しい動物たち。


子どもたちは食い入るように見つめたり、動いている動物に歓喜の声を上げたりして楽しんでいます。やっぱり子どもたちは生物が大好き。

その中でも、子どもたちに人気だったのはアマゾンマナティー


水中をのんびり泳ぐ姿、つるっとした質感、ミルクを飲むつぶらな瞳も愛嬌のある表情で大好評でした。


何人かの子は名前は知っていると手を挙げましたが、ほとんどの子は、見たことがないとのこと。


「アザラシ? カバ? ジュゴン? ああ,マナティー!!」


マナティは一気にクラスの人気者になりました。 


しかし、一方で、そんなかわいいマナティーが絶滅の危機に瀕していて、INPAのマナティは保護されたものであることを伝えます。


子どもたちは、もっとマナティーや熱帯雨林の現状に関心を寄せていきました。

そこで、「先生は日本とアマゾン川を行ったり来たりしてマナティーを研究している菊池博士と仲良くなったので、菊池博士と一緒にもっと熱帯雨林を研究していこう」となげかけます。


憧れの熱帯雨林についてもっと勉強できるだけでなく、さらに憧れの博士まで一緒に教えてくれるなんて、すごい!!


子どもたちは、いつもの学校生活にはない学習で、一気に気持ちが高まります。


「おもしろそう!! もっと熱帯雨林について調べよう!!」


子どもたちはすでに逸る気持ちを抑えられない様子でした。


菊池博士への質問なども募集しました。たくさん出たのですが、みんなで絞って、菊池博士にメールで送信です。

・マナティーはどれぐらいへってしまったのですか?


・マナティーはどんな性格ですか?


・マナティーは友達同士で話すことができるのですか?


・マナティーの他に絶滅しそうな生き物はいるのですか?


・マナティーは菊池博士の顔を覚えるのですか?


・マナティーにしてあげられることはありますか?


さて、一週間後、菊池博士から丁寧なお返事をいただきました。

喜びのあまり絶叫する子どもたち。一人ひとりに手紙のコピーを配り、私が代読していきます。



3年3組のみなさんへ

はじめまして。京都大学の野生動物研究センターの菊池夢美です。

先生から、3年3組のみなさんがアマゾンマナティーについて興味をもってくれていると聞いて、とてもうれしく思います。私もマナティーが大好きで、彼らのことをもっと知りたいという気持ちから研究をはじめました。

みなさんからの質問にお答えしたいと思います。 でも、まだまだアマゾンマナティーについては、わからないことがたくさんあります。


アマゾンマナティーがアマゾン川でどんな暮らしをしているのか、どうやって大きなにごった川のなかを移動しているのか、ごはんはいつ食べているのか、など、本やずかんにものっていないことがたくさんあります。

皆さんもぜひ、マナティーについていっしょに調べていきましょう。

①マナティーは、どれぐらいへってしまったのですか?

実は、もともとアマゾンマナティーは食べるためにつかまえられていました。アマゾン川の人にとってーの肉は貴重な栄養です。

しかし、マナティーの数がひどくへってしまったのは、マナティーのじょうぶな皮をベルトコンベアーなどの工場用品にするために乱獲がおこなわれたからです。

今から80年ほど前から10年間、アマゾンマナティーは年間4千〜7千頭も殺されたと記録されています。10年間で5万頭以上のマナティーが殺されたことになります。


「食べるため」と比べて「工場用品のため」にたいへんな数のマナティーが犠牲となってしまいました。


②マナティーはどんな性格ですか?

ナティー科には3種のマナティーがいます。ウェストインディアンマナティー、アマゾンマナティー、アフリカマナティーです。

この中で、アマゾンマナティーはとても臆病で、警戒心がつよいといわれています。アマゾン川で野生のアマゾンマナティーを見つけるのはとてもむずかしいです。水面に鼻を出して呼吸をするときも、ほとんど水面を波立たせることなく、しずかに呼吸をして水中にもぐってしまいます。

反対に、ウェストインディアンマナティーは好奇心旺盛で、水中で人間といっしょに泳いだりもします。とくにウェストインディアンマナティーの赤ちゃんは好奇心旺盛で、人間に興味を持って近寄ってきてくれることもあります。


③マナティーは友達同士で話すことができるのですか?


マナティーも、イルカやクジラのように鳴き声を出します。友達同士で話をするか、まだ分かっていません。お母さんとその子どもが「ピーピー」と鳴きかわしてコミュニケーションをとっていると言われています。

人の声を聞くと、それが「お母さん」とか「お友達の◯◯ちゃん」とか、わかりますよね?そして、どこから声がするのかもわかります。これは,人間の声にはそれぞれの特徴があるから、声だけで誰だかわかるんです。そして、私たちの耳は、音がどこからするのかがわかる仕組みになっています。

けれども、水中にくらすマナティーやイルカ、クジラ、アザラシなどは、声にそれぞれの一ぴき一ぴきの特徴があるのか、くわしくわかっていません。


そして、水中では空中と音の伝わり方がちがうので、鳴き声がどこからしているのか、も調べるのがむずかしいです。実は、水中の生き物の鳴き声についてはまだまだわからないことがいっぱいです。

④マナティーの他に絶滅しそうな生き物はいるのですか?


はい、たくさん絶滅しそうな生き物がいます。

日本でも多くの生き物が絶滅のしそうになっています。みなさんでぜひ、調べてみてください。


日本ですでに絶滅してしまった生き物についても、どうぞ調べてみてください。決して同じ過ちをくりかえさないように、これまでに何が起きたか、そして今何が起きているのかを、私たちはしっかり学ばないといけません。


⑤マナティーは菊池博士の顔を覚えるのですか?


覚えてくれると嬉しいのですが、マナティーは目がよくないので,私の顔を覚えていないと思います。


アマゾンマナティーがくらすアマゾン川は、とてもにごった水質です。そのため、水中ではほとんどまわりが見えないので、「見る」よりも「さわる」や「音をきく」ほうがとくいだと思います。

⑥マナティーにしてあげられることはありますか?


わたしたちが、今すぐアマゾンマナティーの数を増やすためにできることは,ざんねんながらありません。

私たち人間もマナティーも、地球上のすべてのほにゅうるいは、大人になって赤ちゃんを産むようになるまでに、長い時間がひつようです。

アマゾンマナティーの赤ちゃんは、お母さんから自立するまでに2〜3年かかります。その後、数年かけて成長し、1回に1頭の赤ちゃんを産み、そして2〜3年かけて赤ちゃんを育てます。このサイクルを守っていかないと、マナティーの数を元にもどすことはできません。

さらに、アマゾン川の水がよごれてマナティーが病気になって死んでしまうこともあります。たべるえさがなくなってしまわないように、マナティーだけではなく、マナティーのくらすアマゾンの熱帯雨林も守っていかないといけません。



このあと、菊池博士からの手紙に書かれていた最後の文章によって、子どもたちの雰囲気が一変することになります。


どんな事が書かれていたのか!? 


それは、また次回ご紹介しますね。


 

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