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菊池研究員レポート①(ブラジル)

更新日:2018年7月7日

2018年4月 マナティー放流調査@ブラジル


報告者:京都大学 野生動物研究センター/マナティー研究所 菊池夢美



マナウスの国立アマゾン研究所のマナティー親子

 私は,2007年から #ブラジル#マナウス という街にある #国立アマゾン研究所(略称;INPA,インパ)と協力して,#アマゾンマナティー の行動調査を行なっています.

 INPAには #アマゾン川 の水生ほ乳類の研究室があり,こちらの女性教授ベラ・ダシルバさんと研究員のディオゴ・ソウザと一緒にアマゾンマナティーの調査,研究を続けています.

保護された赤ちゃんマナティー

 ブラジルでは,アマゾンマナティーの密漁が大きな問題となっています.もともと,アマゾン地域ではマナティーが貴重なタンパク源として食べられていました.アマゾンの過酷な環境では家畜飼育が難しいですし,都市部から離れた村には船で商品を運ぶため,輸送費がかかり,村の商店では鶏肉やソーセージは街よりも高額です.


 それに,村では自給自足に近い生活をしている人も多く,商品を買うためのお金を稼ぐことが難しい場合もあります.こうした中で,アマゾンマナティーというのは,植物を食べる草食性なので肉に臭みがなくて美味しく,体が3m以上と大きいのでみんなで分けられる,アマゾン地域の人たちの重要な食材でした.


 しかし,1935年から20年間,アマゾンマナティーの丈夫な皮を工業用製品に利用するために,毎年7000頭近くも捕獲する #乱獲 が行われました.これによって,マナティーの生息数は激減してしまい,村の人が食べるために捕獲することさえ大きな影響を与えるようになってしまいました.現在は,法律でアマゾンマナティーは保護されているのですが,その肉を目当てにマナティーの密漁が続いています.


 ほかにも,アマゾンマナティーの肉を発酵させた珍味があり,街に暮らす富裕層がこれを破格な値段で購入するため,それを目当てに密漁をする漁師がいる,という問題もあるそうです.しかし,INPAの研究員によれば,後者よりも前者,すなわち地域で食べるための密漁が多い,ということでした.

INPAの特性ミルクをもらう赤ちゃん

 INPAが保護するマナティーのほとんどが赤ちゃんです.というのも,「子連れの母マナティーが美味しい」と言われて,密漁が行われているからです.アマゾンマナティーは群れを形成しない一匹狼タイプですが,母子は約2年間の授乳期間を常に一緒に過ごします.


 母親を密漁で失った赤ちゃんは,母乳がもらえずに衰弱してしまったり,密漁のときに怪我を負ったりして,最悪死んでしまうことも.そんな中,衰弱して川岸に打ち上げられた赤ちゃんを発見した村の人がINPAへ通報し,メンバーがすぐに保護しに行く,という連絡網ができているので,毎年たくさんの赤ちゃんがINPAに保護されます.


 INPAでは,保護した赤ちゃんを研究所の特性ミルクで育てます.これは,アマゾンマナティーの母乳成分を調べてつくられています.元気に育って離乳した赤ちゃんは,できるだけ早く,川沿いの湖へと放流されます.

半野生の湖.右側の緑色はすべて浮き草

 湖は,マナウスから車で2時間ほどのマナカプルという街にあります.ソリモエス川沿いにある湖で,川の水が流れ込んでいる,自然に近い環境です.ここを「半野生環境」として,川へ放流する前のマナティーたちのリハビリをしています.


 この湖には10数種類の浮草類が生えていて,これはすべて,野生のマナティーも食べているものです.湖に移動したマナティーたちは,餌を自力で食べたり,川の濁った水質になれたり,飼育とは異なるアマゾン川の環境に慣れていきます.


 この湖では,健康診断を毎年行なっています.健康状態の良いマナティーを選んで,アマゾン川へと放流します.


 このように,保護したマナティーを「飼育ー半野生の環境ーアマゾン川」の3ステップで放流する #野生復帰 をINPAは2014年から行なっています.これまでにアマゾン川へ放流したマナティーを再捕獲して健康診断を行なったところ,体重や体長が増えていて,順調に川へ適応していることがわかりました.


 そして2018年4月,10頭のアマゾンマナティーを川へ放流しました.

背中に吸盤でロガーを装着し,尾びれベルトには自動切り離し装置でロガーを装着

 私は,アマゾン川へ放流した後のマナティーの行動を調べるために,#データロガー という小さな行動記録装置を動物につける #バイオロギング 手法を使っています.


 水中では,人間が動物を追いかけて,長時間,常に観察することは不可能です.そこで,データロガーを使って動物自身に行動を記録してきてもらう,というわけです.


 私は,放流マナティー4頭にデータロガーを装着しました.三次元の行動を記録できる #3Dロガー を吸盤で背中につけて,動物の動きを記録する #加速度ロガー と水中の音を記録する #音響ロガー を尾びれベルトへつけました.吸盤は,だいたい2日ほどで自然にマナティーから外れます.ベルトにつけたデータロガーは,放流の7-8日後に外れるように,#自動切り離し装置 を使いました.

ロガーを回収したときの様子(大笑顔)

 約2週間のアマゾン川での調査で,無事に全てのロガーを回収することができました.現在は,取得した貴重な行動データを詳しく解析しています.


 今調べているのは,放流したマナティーの年齢によって川での行動がどのように変化するか,です.アマゾン川に放流できるマナティーの年齢を検証することで,INPAに保護されている多くのマナティーたちがアマゾン川へ戻れるようにしたいと思っています.

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