2022年3月12-13日に第4回オンライン海牛祭りを開催しました!
ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。
海牛祭りのイベント概要はこちらをご覧ください
イベントではYoutube配信を行い、たくさんの質問やコメントをいただきました。
時間の関係でお答えしきれなかった質問に、このブログで全回答していきます!
長くなるかもしれませんが、ぜひ最後までお付き合いください!最後まで読むと、日本でトップクラスのマナティー情報を得られます。
なお、基本情報は「ジェームズ先生のマナティー講座」でも紹介しています!
【アフリカマナティーの活動する時間帯について】
マナティーは日中に行動する動物なのでしょうか?
人間を避けて夜に動くということは、暗い場所で行動することもできる(夜目がきく?)のでしょうか?
海牛類のマナティー科は3種類に分類されています。
ウェストインディアンマナティー(亜種として、フロリダマナティー、アンティリアンマナティー)、アフリカマナティー、アマゾンマナティーです。
マナティー全体については、「昼行性でも夜行性でもない」と言われています。エサの植物を探して、昼夜関係なく移動している、とうことです。
私たちが調査を進めているアフリカマナティー@カメルーンについては、夜間に活発に行動している傾向がみられました。発表にもありましたが、漁業などの人間の活動を避けているのかもしれません。
夜は暗くてよく見えなくなりますが、もともとアフリカマナティーたちは泥で濁った湖や川に暮らしているので、明るくても暗くても、視覚にはあまり頼っていないのかもしれません。
では、マナティーはどうやって周囲を把握しているのでしょうか?
彼らの優れた感覚器官については、次に紹介します。
【マナティーに生えている感覚毛】
濁った川でマナティーはどうやって食べ物を見つけているのですか、わりと目や鼻がいいのでしょうか
マナティーは、イルカのように超音波を使ったエコーロケーションをしないし、水中は濁っていて視覚が効かないし・・どうやって環境を把握してるのか、気になりますよね。
実は、マナティーの体中に感覚毛が(まばらに)生えています。水生ほ乳類だけど毛が生えてるんです。特に、口元に生えている毛は感覚が鋭いことがわかっています。
これまでのアマゾンマナティーの調査では、円を描くように泳いで移動していることが確認されました。これについて、私たちは、感覚が鋭い口元の毛を使って周囲を調べているのでは?と考えています。
この感覚毛は、魚の側線のような役割を持っていると言われています。マナティーは毛を使って周りを感じているのですね。
【アフリカマナティーの調査と保全対策】
録音装置を置く場所はどのようにして決めているのでしょうか?
現時点では混獲対策としてどのようなことが考えられているのでしょうか?
イベントでは、カメルーンのアフリカマナティーの調査結果を紹介しました。そして、保全対策についてもお話ししました。
アフリカマナティーは法律で保護されていますが、漁網への混獲、害獣としての捕殺、開発や環境変化などで、数が減り続けています。
アフリカマナティーの研究は全然進んでいないので、生態は謎だらけです。そこで、私たちは現地のNGOと協力して、水中録音装置を湖に沈めて、マナティーの鳴き声や食べるときの音を録音して調べています。
録音装置を沈める場所は、野生のマナティーがエサを食べた痕跡があるところ、です。
研究発表の中で、葉っぱが食べられて茎が残っている様子を写真で紹介しました。
このように、食べた跡がたくさんあるところは、マナティーの好きなエサ場かもしれません。
そして、混獲対策として、漁師さんたちにマナティーが絡まりにくい網の設置の仕方をお願いしています。
例えば、湖と川をつなぐ水路を避けて設置してもらう、網を横に広げるのではなく、筒状に沈めてもらう、などです。
現地NGO団体が、地域の漁業組合や環境局と協力して、漁師さんたちへの普及を進めています。
【アフリカでの外来種の浮き草について】
サルビニアには毒は含まれているのですか?
アフリカのカメルーンでは、南米産のSalvinia molesta(サルビニア モレスタ)という浮き草が外来種として問題になっていることをお話ししました。マナティーの暮らしている湖や川をサルビニアが驚異的な速さで埋め尽くしています。
そして、このサルビニアが繁茂する地域からは、野生のアフリカマナティーたちがいなくなってきています。浮き草のせいで呼吸しにくい、エサ植物が少なくなってしまった、など、いろんな影響があると考えています。
これまでの観察では、マナティーはサルビニアを食べないことがわかっています。
どうして食べないのかはわかりませんが、マナティーにとっての毒が含まれているわけではないようです。
【マナティーの好きな植物】
マナティーが食べる植物と好まない植物の違いや傾向は見つかっていますか?イネ科植物が好きとか…
好みがあるように思います。例えば、アマゾンマナティーは、スポンジ上のふっくらした浮き草を好んで食べているようです。ウォーターレタスとかウォーターヒヤシンスのようなものです。
また、飼育マナティーたちはかなりのグルメで、好みが難しいと聞きました。例えば、鳥羽水族館の飼育員さん曰く、「季節によって、好んで食べる野菜の産地が変わる。」ということです
味覚が鋭いですね!ということで、もしかしたら野生のマナティーたちも、旬の野菜のように、旬の草を好んで食べているかもしれませんね。
【マナティーの奥歯の使いみち】
マナティーが植物を食べる際には歯を使い分けたりしてるのでしょうか。なんとなくゾウのような大きい奥歯を持っているイメージを持っていますが
マナティーの奥歯は、人間の臼歯のような形をしています。常に生え変わり続けているので、飼育水槽の底に奥歯が残っていることもあります。
エサをたべるとき、どうやって奥歯を使っているのかは、まだよくわかっていません。
植物を食べるときによく使っているのは咀嚼盤(そしゃくばん)です。これは、前歯のあたりに上下についている板状のものです。
水中録音装置を使ってエサ植物をシャクシャク噛む音を録音していると、たまに「キュッキュッ」と何かが擦られて鳴っているような音が聞こえます。
これは奥歯が擦れて鳴っている音じゃ無いかな?と考えています。私たちも、ご飯を食べているときに奥歯がキュッと鳴ることがありますよね。
ということはやはり、エサを食べているときに、奥歯を使っているのかもしれません。
【マナティーは繊細で臆病】
マナティーは繊細で怖がりみたいですが、他のマナティーが自分の近くで餌を食べているのを怖がったりはしないのでしょうか?
他のマナティーを怖がることはないと思います。赤ちゃんのころはお母さんから3年近く授乳をしますし、大人になってからも群れをつくることもあります。そして、繁殖期にはオスメスが出会わなくてはいけません。もし他のマナティーを怖がっていたら、子孫を残せなくなります。
マナティー3種類の中で、人間を怖がらないで近寄ってくるのは、ウエストインディアンマナティーの亜種のフロリダマナティーだけ、です。これ重要です!
他のマナティーたちは、基本的には人間を避けています。
そのため、「マナティーは繊細で臆病」と表現しますが、これは危険を避けるための性質です。
赤ちゃんの頃に保護されて、国立アマゾン研究所で飼育されたアマゾンマナティーは、自分以外のマナティーと飼育員以外の生きものの経験がありません。
そのため、成長してから半野生の湖に移動したとき、湖にいるピラルク(最大級の淡水魚)や水鳥などの存在に驚いていることがあります。ピラルクがジャンプした音に驚いて逃げたり・・
国立アマゾン研究所では、保護したマナティーをもう一度野生のアマゾン川へ戻す努力をしているので、赤ちゃんマナティーが成長したら、半野生の湖に移動させて、アマゾン川の環境や他の生きものの存在に慣れさせるようにしています。
以上で、イベントのときに寄せられた質問へすべて回答しました!
まだよくわかっていないことも多くて、欲しかった答えがスッキリ得られなかったかもしれません。
そういう方は、ぜひ研究に参加して、マナティーの生態解明に協力してください!
これからマナティーについてはいろいろな情報が増えてくると思います。
そして新しい発見によって、図鑑や本の内容が書き換えられる日も遠くないと思います!
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